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「さすがにない。つか、そういうつもりじゃなくて、マジで。ただ、興味があったっていうか……」
「そういうつもりじゃなくても興味を持っちゃう、それは恋じゃん」
「恋とか笑うわ。マジかー。だってそんな……」
ちょっと興味があるだけだ。
九つも年上の、見た目だって大したことはない。どっちかっていうと地味で、おまけに他の男を好きで。
しかし、千次郎の中の優先順位はもう違ってしまっていることは明白だ。
あまりに対象外すぎて、気がつかないふりをしていたのかもしれない。
それとも珍しく自分に女を匂わせてこない聡子だからこそ、負けん気のようなものに火がついたのだろうか。
同時に、プラトニックなところに魅力を感じていたのかもしれない。
ともかく、何がどうでもいい。
気になって、知りたくて、つまり惹かれているのだ。なにかに強く惹かれている。
「いやいやでもさー。美瑠ちゃんみたいな子、なかなか探したっていないよ。完璧じゃん。見た目にも条件的にも。そこそこお嬢で頭もそこそこ。中身だって全然イイし」
「うん、まあなー」
美瑠が千次郎に対してその種の執着があるのと同様に、千次郎にも美瑠への愛情以外の執着は実際ある。
結婚となると相手の女性にある程度の条件は求められるのはわかっている。長男である万太郎ほどではないにしても。そして、学生時代のテリトリーで探しておくのがベターだとも。
そう考えれば、正直なところ美瑠は確かに惜しくはあるが。
「でも、まあ。まだ守りに入るトシではないでしょ、俺たち」
貴大のつぶやきを傍らに聞きながら、千次郎は美瑠との別れを心に決めていた。
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