2497人が本棚に入れています
本棚に追加
*
『しばらく連絡取れないかもしれないけど心配しないで。落ち着いたらこっちから連絡入れる』
こんなことを言える間柄だったかと自らに突っ込みつつも、千次郎が聡子にそんなメッセージを送ってから二週間が経っていた。
聡子からは既読がついただけでそ返事もその後の音沙汰もない。
聡子らしいといえばそうだったし、大人の対応と言えばそれもそうだった。
聡子なりに、知りえない千次郎の生活ないし事情を慮っているのだろう。
それくらいに千次郎の生活は社会人の聡子が送る毎日とかけ離れているし、同時に努めて『大学生である自分』を見せないようにしてきた気がする。
年齢差という距離を、無意識のうちにできるだけ聡子に感じさせたくなかったのだと思い知る。
つまり、もうずっと千次郎は自分では気づかず聡子を追いかけていたのだ。
連絡しなかった間に、聡子がその間アンバーを一度だけ訪れたことを神楽木伝いに聞いた。
そして一昨日、昨日、今日と、千次郎はアンバーで聡子を待っている。
「千、仕事中はスマホ禁止ー」
「いや、今夜の天気見てただけです」
「天気?」
聡子がアンバーを訪れるのが早いか、それとも雨の降る方が先か。
「勝機があるなら雨しかないんで」
賽は投げられた。プランAかBか。
最後の連絡から二週間。千次郎は雨を待っている。
最初のコメントを投稿しよう!