4.大学のとき相手はまだ小学生だよ、九つ差って

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*  神楽木を好きなことが千次郎に知られてしまったくらいで、聡子の生活に変わりはない。  動揺するほど初心でもないし、千次郎だって、からかったり、逆に変な気を利かせたりということもしないだろう。その辺りは紳士的に彼を信用できた。  だから、千次郎と神楽木と聡子と、これからもこれまでと同じような関係が続いていくのだろうと思っていた。  千次郎からメッセージが届いたのはそんな矢先だった。  しばらく連絡が取れないという。  千次郎のスケジュールは忙しく、多岐に及んでいることは予想できる。  社会人の忙しさなどは、ただ毎日を会社に占有されているだけの地味な多忙だ。  いまどきの大学生の生活など、自分にも数年前に同じ時代があったとはいえ聡子には全く想像できなかった。  時期的に試験というわけではないだろうが、レポートとかインターンシップとか、長い夏休みだから短期留学とか、彼女と海外に旅行にでも行くのかもしれない。  それきり二週間。  連絡はまだない。 「あー、雨降ってるー!」  大学時代の友人四人での女子会を終えて、地下の店から階段を上がると、道路にできた水たまりに繁華街のネオンが反射していた。 「天気予報、夜から雨だった。傘持ってるよ」 「さすが、聡子」 「げっ、寒い!」 「麻美は露出しすぎだって」  今夜の雨は、蒸し暑さよりも冷気を運ぶ雨らしい。聡子も半袖から出た腕を自然と抱く。  折り畳みの傘を出すと同時に、バッグに入れたままになっていたスマートフォンを数時間ぶりに手に取る。  不在着信があった。  久しぶりに千次郎の名前を画面に見る。  不在着信が三件とメッセージが数件。今夜の予定を尋ねるもの、連絡が欲しいと乞うもの、ダメ押しの『今どこ?』。  いつもはせいぜい返事を要しないくだらない内容か、アンバーにいるとか行くとかその程度の問いなのに、久しぶりという理由以外に何か早急な印象を受ける。  雨模様の空とこの後の時間をどうするかとかしましい友人たちからすこし離れたところで千次郎の番号に折り返した。  そういえば、電話で話すことは今までにも数えるほどかもしれない。  呼び出し音を聞くか聞かないかで、千次郎にはすぐつながった。  まるで電話を待っていたかのようだ。 「千ちゃん? ごめんね。気づかなかった」 『今どこ? 八田?』 「ううん、まだなんだけど。どうしたの? アンバーにいるの?」  千次郎がアンバーにいるなら、このメンバーでの二軒目は断って合流しようかと頭をよぎった瞬間、 『今、聡子のマンションの下にいる』 「え?」 『ごめん、もう充電やばい。とにかくマンションで待ってるから』  聡子は取るものも取り敢えず、駅へ向かうと電車に乗り込んだ。   
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