1.人生において出会いが運命的なものかなんて所詮後付け

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 聡子は黙ったまま、神楽木が目の前で氷を鳴らしてステアしているのを見ていたが、ふとブラックボードに書かれたメニューを見上げた。 「あ、新しいフードが増えてる」 「気づいてくれた? そうなんです、今日からいくつか新メニュー」 「うわあ、どうしよう。どれもおいしそう。迷っちゃう」  定番のものに付け加えられた初めてお目見えする二つの名前から、聡子は『三種の芋のラタトゥイユ』というのを注文した。  ココット皿に入っていて、上にサワークリームがたっぷりとのっている。  今の場合、調理するは賢だが、メニュー自体は神楽木が考え、仕込みもしていると以前聞いた。 「え? なにこの歯ごたえ。筍入ってます? それとも蓮根?」 「ああ、それね、菊芋の食感なの」 「へえ!」   素材や作り方について尋ねることは、聡子の数少ない話題の一つで、料理は食べるのも作るのも好きな方だ。 「お芋も一緒に煮込んでるんですか?」 「ううん、かためにゆでた芋に上からソースかけてるだけ。簡単だよ、作り置きできるし」 「冷たくて美味しい。というか、このラタトゥイユ絶品ですね! やだなにこれ、ほんとにすごく美味しい」 「ありがとうございます」  聡子はもぐもぐと動かす口もとを手で隠しながら、 「サワークリームも合うんだあ。これだったら私にもなんとか真似できそう。こんなに美味しくないだろうけどそれなりには」 「川北さん、料理好きだよね」 「あっ、すみません! お酒を楽しむお店なのに……」 「いや、全然。むしろ、バーだから誰もフードは味わってくれなくて、だから俺は嬉しいけど。最近、川北さんの存在を意識しながら新しいメニュー考えてるところあるかも」  神楽木が珍しく照れたように笑うので、聡子は胸が痛くなる。
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