2497人が本棚に入れています
本棚に追加
聡子は黙ったまま、神楽木が目の前で氷を鳴らしてステアしているのを見ていたが、ふとブラックボードに書かれたメニューを見上げた。
「あ、新しいフードが増えてる」
「気づいてくれた? そうなんです、今日からいくつか新メニュー」
「うわあ、どうしよう。どれもおいしそう。迷っちゃう」
定番のものに付け加えられた初めてお目見えする二つの名前から、聡子は『三種の芋のラタトゥイユ』というのを注文した。
ココット皿に入っていて、上にサワークリームがたっぷりとのっている。
今の場合、調理するは賢だが、メニュー自体は神楽木が考え、仕込みもしていると以前聞いた。
「え? なにこの歯ごたえ。筍入ってます? それとも蓮根?」
「ああ、それね、菊芋の食感なの」
「へえ!」
素材や作り方について尋ねることは、聡子の数少ない話題の一つで、料理は食べるのも作るのも好きな方だ。
「お芋も一緒に煮込んでるんですか?」
「ううん、かためにゆでた芋に上からソースかけてるだけ。簡単だよ、作り置きできるし」
「冷たくて美味しい。というか、このラタトゥイユ絶品ですね! やだなにこれ、ほんとにすごく美味しい」
「ありがとうございます」
聡子はもぐもぐと動かす口もとを手で隠しながら、
「サワークリームも合うんだあ。これだったら私にもなんとか真似できそう。こんなに美味しくないだろうけどそれなりには」
「川北さん、料理好きだよね」
「あっ、すみません! お酒を楽しむお店なのに……」
「いや、全然。むしろ、バーだから誰もフードは味わってくれなくて、だから俺は嬉しいけど。最近、川北さんの存在を意識しながら新しいメニュー考えてるところあるかも」
神楽木が珍しく照れたように笑うので、聡子は胸が痛くなる。
最初のコメントを投稿しよう!