1.人生において出会いが運命的なものかなんて所詮後付け

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 季節は爽やかな頃ではないので、走ると店に着いた時に汗ばんでしまうが、はやる気持ちは抑えられない。  店につく頃には小走りになっていて、ドアを押す強さも少々乱暴なものになってしまった。 「こんばんは!」 「いらっしゃいませ」  しかし、迎えてくれた神楽木はあっけないくらいいつもと変わらなかった。  いつも以上に落ち着き払っているようにさえ見え、息を切らしている自分との温度差をありありと感じる結果となってしまった。  走ってきたせいで前髪が風に飛ばされ、額が丸出しになっているだろう。聡子は慌てて髪を手で整えながら、ハイチェアに腰をかける。 「さとこー! お疲れさまー!」  葉子はいつもよりハイテンションだ。  正統派の美人顔で、目を引く華やかさが備わっているからか、アンバーの雰囲気が今はいつもより都会的に映った。 「遅くなってごめんね」 「コウさんの予言、大当たり!」 「予言?」 「駅着いたってメール来ての今なんだから、コウじゃなくて俺でもわかるし」  葉子が隣の、聡子とは反対側に座る男と話し始めたので驚いた。  見知らぬ男性だ。  スーツの上着を脱いでワイシャツ姿の、年の頃は聡子たちと同じくらいにうかがえる。  店には葉子とその男しか客はいなかったが、そもそも客のいるアンバー自体が聡子には珍しい。  聡子の戸惑いを神楽木はいち早く察したようで、おしぼりを差し出しながら、 「川北さん、こちら鳳くん」 「どうも、鳳万太郎です」  神楽木の視線の先にいた男性は、葉子の向こうから顔を出して頭を下げた。彫りの深い顔立ちで声も低い。 「はじめまして、川北聡子です」 「彼とすっかり意気投合しちゃってさー。同い年だって言うし」  葉子はご機嫌だ。
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