1.人生において出会いが運命的なものかなんて所詮後付け

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 そんなことだから話を弾ませるのがうまくないのだと思いながら、耳を二人の話に傾ける。  傾けるどころではない。一言一句聞き逃さないように、どきどきしていた。  二人はバーベキューの話をどんどん具体化させていき、まるで現実のものとなりそうな雰囲気だ。  まさか神楽木とプライベートで会うチャンスがあろうとは。  これは、葉子の強引さに感謝しなければならない。  万太郎にしても酒の席の話でと流すことなく、しかも、今日初めて会ったばかりの相手だというのにこうして早速実行に移してくれ、几帳面な性格らしい。  地元の中小企業の社長の息子で、時間も金も人脈もあるのだろう。それらが揃うと自動的にフットワークは軽くなる。今は座っているが、身長もありそうだし、顔も悪くない。  彼を青田買いしている、たとえば高校生の頃からの彼女などがいそうだなとおせっかいな予想一人したタイミングで、 「お前、彼女は? 連れてこないの?」  神楽木の一言はさりげなかったが間違いなく聡子と葉子に対しての牽制であり、優しさだろう。  万太郎に彼女がいることを知らないで恋をしてしまわないための。  が、あいにく聡子は万太郎に興味がない。おそらく葉子も同様に。 「彼女さんが構わなければ、是非ご一緒させて下さい」  神楽木の気遣いに応えるように、聡子は率先して万太郎を促した。きっと、彼女も他の女を連れてバーベキューなど行って欲しくないはずだ。  その流れで、「コウさんの彼女も遠慮なくどうぞ」とカマをかけてみたかったが、それを普通に言ってのける自信はなかった。  聡子のデータ上では、神楽木は未婚で、恋人もナシ。直接尋ねたことはないけれど。  たとえば、一人暮らしだとか、デートなどというものをしたのは何年前かとか、クリスマスが寂しいとか、そういった会話の端々から知れる情報をかき集めた上で、得意の推測をした結果だ。 「車どうすっかなー。飲みたいし」  万太郎はそう言いながら、不安定なハイチェアの上でのけぞった。 「千も呼んで、あいつに運転させようかな」 「来るかなあ。この前、店来たときも忙しそうだったよ。でも釣りしたいとは言ってたから来るかも」  誰のことかと話に入っていけるはずもなく、しかし、話題に上っているその呼び名からして、もしかしたら万太郎の弟かもしれないと考えながらおとなしくしていると神楽木が、  「千次郎って、万太郎の弟」 「やっぱり。そうかもなって思ってこっそり聞いてました」  聡子は笑って、肩をすくめる。推測が当たっていたことは、素直にいい気分だ。
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