波乱の幕開け

35/36
前へ
/161ページ
次へ
◇◇ 春の陽気を知らせる様な、良く晴れた三月下旬。 勝手口から少し歩いたところに、4人並んでお屋敷を囲む高い塀を見上げる影があった。 そこに現れた、猫背がちの男性二人。 「ちょっと聞いてよ。おじさん、マル対に見つかったんですけど。どうなの、探偵として。」 「可愛いかったぞ。」 「や…可愛い云々はいいとして、それさ、洒落んなんなくない?あ~!俺、説明しなきゃなんないじゃん!依頼者に。」 一人だけきちんとスーツを身に纏った男性が眉を下げて苦笑い。 「頼んだ、相棒」 それを一言で片付ける、猫背がちの男性の一人。 「ねえ!どんな感じだったの?」 一番背の高いスラッとした男性が黒めがちな目を輝かせた。 「ん~…メイド服がよく似合ってた」 「あ、それは俺も思った。まさにメイドって感じでね。」 キャップを被っている男性がそれを外して少し伸びをする。 「ふ~ん、誰かさんとは大違い…。」 それを受けて、力強い眼差しを有した男性が、隣に居た唯一の女性の頭をポンって撫でた。 「……。」 それに何も言わず睨み返すその女性。 「大丈夫だよ!俺はメイド服姿が微妙でも全然気にしない!」 スラッとした男性が明るくそう言ったら 「出た、フォローになってない、優しさ。」 スーツの男性がまた苦笑い。 「俺は踵落としする女子のがメイドより好きだぞ。」 「おじさん、そのフォローもどうかと…。」 キャップを被り直した男性も苦笑いをしたら ドコッ! 少しだけ辺りに響く鈍い音。 それと共に、お腹をおさえながら少し屈んで「ぐっ」って一瞬声を出す眼差しの強い男性。 「いきなり腹に拳入れんな!」 「ごめん、ハエが止まってたから」 女性がニッコリ笑いかけたら、ムキになる。 「はあっ?!お前ふざけんな!」 「うるさい!」 「あ、怒られた!」 今度はスラッとした男性の笑い声が辺りに響いた。 そんなやりとりをスーツの男性は優しい眼差しで見守ってからゆっくりと口を開いた。 「…じゃあ、依頼主に会って来る。」 他の五人はそれに微笑みと少しの悲しさの表情を返す。 “微笑み”は、依頼主へ会いに行くスーツの男性への信頼の証。 “悲しさ”は…運命に翻弄されていくであろう対象者への思い入れ。 5人とも…そして俺も。 それぞれ背負って来たモノがあるからこその表情だ。 受け止めた方のスーツの男性は、そんな想いを抱いた。 .
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

285人が本棚に入れています
本棚に追加