出来れば、隣で。

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. 瑞稀様とのお食事の日はすぐに訪れた。 どんな服装が良いのか、全く分からなくて、坂本さんに相談したら、「奥様から譲ってもらった服を」とレトロな膝丈のワンピースを貸してくれた。 それに奥様から頂いたネックレスをつけて、ハンドバックを片手に持つ。 「うん、大丈夫じゃないかしら!」 一緒に鏡を覗き込んだ坂本さんがポンって手を肩に置いた。 「楽しんで来てね…って言うのは無理そうだけど」 緊張してガチガチになってる私を面白そうに笑ってる。 「…フランス料理っておっしゃっていたけど…間違えてラーメン屋さんって事は無いですよね。」 「全く~あるわけ無いでしょ!大丈夫よ、この日の為に頑張ったんだから。」 坂本さんに背中を押されて出て行った玄関で、圭介さんと一緒に瑞稀様も待ってた。 いつものスーツより少しだけ色味を持っている気がするその姿。 濃いめの小豆色のストライプジャケットを纏っていて。 …お洒落だなあ。 サラッとああいうのをチョイスして着こなして、瑞稀様はいつも本当に完璧だ。 私の姿を見つけると口角をキュッとあげて近づいて来る瑞稀様。 「ん」と掌を差し出した。 「あ、あの…。」 「こう言う時はね、男がエスコートするもんなんですよ。」 あ…そうか。 もう始まっているんだ。 戸惑いの中で手を乗せたらそのままキュッと握られる。 「足下にお気をつけください。」 圭介さんもそれに準じて、歩く方向を促した。 ど、どうしよう…余計緊張する。 ドキドキしながら入ったお店は重厚な門構えで。丁寧に挨拶する店員さんが一番窓側の景色の良い席に案内してくれた。 「咲月、ワイン好き?」 「は、はい…。」 「あ~…じゃあ、適当に、ね?」 テーブルの真正面に座った瑞稀様は横に付いたソムリエさんにメニュー指しながら何やら話をしている。 テイスティングして… ワインを注がれ、カチンとグラスを合わせて ここ二ヶ月教わって来た通りにお食事をして 間接照明とロウソクの揺らめき、雰囲気がどことなく暖かなお店の中で、テーブルを挟んで柔らかく微笑んでいる瑞稀様は、お洒落で、スマートでキラキラしていた。 夢にまで見た『瑞稀様との外食』は本当に夢みたいな時間だったけれど。 どことなく、自分が自分ではない感覚で、落ち着かなくて。けれど瑞稀様はずっと落ち着いていて普段通りで。ほんの少しだけ寂しい気がした。 ・ 「…どうだった?」 「はい…美味しかったです。」 食事を終えて車へと乗り込む。 どことなく盛上がりきれない私とは裏腹に瑞稀様と圭介さんは何故だかとても楽しそう。 「や、ちゃんと出来てたよ?なんだ、以外と本番に強いじゃんて感心した。」 私の頭を撫でる瑞稀様を思わずじっと見たら、「ん?」と小首を傾げた。 そうか、ちゃんと出来なかったって落ち込んでいると思われてるのか。 頭に感じる瑞稀様の掌の感触にこの上なく安心を覚える。 まあ、瑞稀様と一緒ならどこだって私は楽しいし、嬉しいけど。 だけど… ……何か違う。 『あなたには知識も教養も身に付いていません。』 ふと奥様過った奥様の言葉 …ああ言う場所に私が慣れればそんな違和感なくなるのかな。 フウッて溜息ついたらポンポンって頭の上で瑞稀様の掌が弾んだ。 「ねえ、圭介、咲月って次はいつ夜、外に連れ出しても平気?」 …え? 思わず見ると、瑞稀様は私にイタズラな笑顔で口角をキュッとあげて見せる。 「それは…瑞稀様がご都合の良い時をおっしゃって頂ければ、休み等は調整致します」 運転をしながら、いつも通り穏やかに返事をする圭介さん。 「そっか。じゃあ、上田に確認してみるけど…来週頭かな。恐らくは。」 「今度はどちらにご予約を…。」 「や、予約はいいや。」 その言葉に赤信号で車を停止させた圭介さんがバックミラー越しに後ろを見た。 「…と、いいますと。」 「うん。今度は咲月の好きなとこに行こうかなってね。」 わ、私の?! 驚いて目を見開いたら面白そうに眉を下げる瑞稀様。 「咲月のお勧めの店で食ってみたいんだけど。」 「は、は、はい…や、でも…」 「…何だよ。俺とは好きな店でメシ食えないわけ?」 「ち、違います…そ、そうではなくて…」 だって、私の好きな所なんて…ハンバーガー屋さんとか、ちっちゃい定食屋さんとか…つけ麺が美味しいラーメン屋さんとか…? 瑞稀様をお連れ出来そうな所なんて無いのに。 .
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