突然の訪問者

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. 「…もう少しだけ経ってからにしようかな。今、二人で世界を旅行してる最中でしょ?父さんと母さん。邪魔しちゃ悪いよ。」 …その旅行は“マコの影響”だけどね。 もちろんハッキリそう言われたわけではないけれど。その位、俺にはわかる。もともと旅行が好きだった二人だから、それだけじゃないとは思うけど、マコに『会えるかもしれない』と言う想いは絶対にあるんだよ、父さんと母さんの中には。 その位、必死になって探していたから、マコが居なくなった時。 「瑞稀!暫くは瑞稀と二人を楽しみたいって事で暫くは…。」 「…マコの好きにしたら?」 ただ俯いて素っ気なくそう答えたら「瑞稀!」といきなり両頬を覆われて顔をマコの方に向けさせられた。 目の前に現れたマコは真剣そのものの顔をして「瑞稀はそれでいいの?俺が帰って来て嬉しい?」なんて聞く。 や、俺さ…大人なんだよ、これでも。そりゃ、世間的に社会人としてはひよっこかもしれないけどさ… 圭介と涼太の前で子供扱いは勘弁して欲しいとは思いつつ、悪態をついたら、マコの事だから余計に絡むと素直に従う。 「あー…はいはい。嬉しいよ、嬉しいに決まってんだろ?」 頬を覆ってる両手を剥がしながらそう答えて俯いた。 けれど、結局見ていた、圭介と涼太はニヤケ顔。 これじゃあ、同じだわ。大学時代に4人で居た時と。こんな感じは日常茶飯事だったもんな…。 「よし!じゃあ、暫く二人でゆっくりしよう!瑞稀!」 「や、俺仕事あるし。もうそろそろ家を出ないと。」 「えー!」 「いきなり帰って来たんだから、仕方ないでしょ?そこは。 休みが調整出来たら近いうち取るからさ。とりあえず今日は大人しくしてて?」 「うん…。じゃあとりあえず波田さんのご飯で腹ごしらえして、部屋に戻るわ。」 「まあ、ゆっくりくつろいでてくださいよ。」 「そうだね…。あ、そうだ!くつろぐで思い出したんだけど、新しいメイドの、咲月ちゃん、何か良さげな子だね。今まで一番なんていうか、しっくりくる感じがするんだよな…。」 出会ったその日に…“咲月ちゃん”…ね。 涼太の顔が笑顔のままフリーズして圭介がそれを少し横目で捉えた。そんな二人の微妙な気配は全く気が付かないであろうマコは続ける。 「俺、今まで、坂本さん以外のメイドさん達ってちょっと苦手だったんだけど、話した感じが、素朴な感じっつーか…話し易くて。瑞稀とも上手くやれているみたいだし、長続きしそうだよね!」 立ち上がって伸びして「おし!腹ごしらえだ!」とてダイニングへと向かって行く。そんなマコの姿を見送り、溜め息をついた。 まあ…さ。 第一印象が良かったんだろうな、と言う予想はついていたけれど。 持ち前の明るさと行動力で周囲を明るくするのが得意なマコ。けれど実は人前や大勢よりも、一対一が苦手な人見知りで。 人によっては一緒に居るだけで冷や汗をかいたり、目が合わせられなかったりという事も昔はあった。 大人になった今、それ程ではないとは思うけれど。警戒心は人一倍あったりするから。咲月はそこを出会いで簡単にクリアしたんだよな、多分。 だってさ。いくら花弁がついていたとはいえ、初対面の相手の頭に触れようなんて、マコは普通なら思わないから。 「瑞稀…。」 「涼太、悪いけど、真人様の部屋の花瓶、一つ増やしてもらえる?」 涼太が俺に何かを言おうとした所に圭介が割って入った。 それだけで、二人で何か通じあったらしい。 「…ああ。わかった。」 言葉少なに答えた涼太は「瑞稀、またな」と少しだけ微笑み、リビングを出て行った。 残った俺と圭介。 「瑞稀様、お時間は…。」 「上田を待たせているからそろそろ行かないと。」 「さようですか。上田さんとスケジュールの事でお話する時間を少々頂けたらと存じますが…」 「ああ…うん、その位は構わないよ。」 「ありがとうございます。では、その間、もしお手間でなければ、自室の方へ足を運ばれるのもよろしいかと。 今、鳥屋尾がクリスマスツリーの飾り付けと花の差し替えをしておりますので、朝とは少し風景が変化していて、気分転換になるかと思いますので。」 そう…なんだ。 そう言えば『毎日一つずつオーナメントを増やそうかと』とも言ってたしな…もしかして、新しい変なの増えてる? 角の無いトナカイの事思い出したらちょっと頬が緩んだ。 折角だからもう一度、会いに行くかな…。 .     
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