突然の訪問者

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. 「瑞希はさ…何か自分でどうしたいかとか、肝心な所言わないんだよね。」 靄のかかった気持ちを引きずったまま、飾り始めた瑞稀様のお部屋のツリー。星をてっぺんに乗せた時、ポツリと真人様が呟く様に話し出した。 真人様の顔を見ると、笑顔の表情の中、少しだけその優しい瞳に寂しさが宿っている気がする。 「『真人の好きな様にしたら?』っていっつもそんな感じでさ。 でも、俺の好きな様にって言ったって、俺は瑞稀が好きな様にする事を望んでるんだからいたちごっこでしょ?」 「ん」って出された手に、小さな星の飾りを乗せた。 それを丁寧にもみの木につける真人様 「今回もさ。もっと怒ってくれてもいいのにね。突然、連絡もしないで帰ってきちゃったんだから。」 小首をかしげたら、苦笑い。 「聞いてない?俺さ、10年前位に勝手に行方不明になったの。で、今、勝手に帰って来た。」 そう…だったんだ。 『手の届く所に『大切』な人が居るって幸せな事だって思うよ。』 不意に思い出した瑞稀様の言葉。 もしかしてあの時、真人様を思い出していたのかな…? "どうして居なくなってしまったのか" 沸きあがって来た好奇心を慌てて、抑えた。 例え、あの時、瑞稀様が思い出していたのが真人様であったとしても、私がお二人の事に首を突っ込んではいけない。 「あ、あの…ご旅行されてたと伺っているのですがどんな所を旅されていたのですか?」 咄嗟に明るく話題をすり替えた。 「結構色んな所回ったよ。アラスカとかね!オーロラ見たくて。 すっごい綺麗だったよ!基本、緑色のカーテンみたいな!紫と二色だったかな、俺が見たのは。」 「すごいですね。オーロラ…。いつか見てみたいです。」 「世界は広いよ?面白い事いっぱいあるの。偶然、ニュージーランドで涼太に合ったりも出来るし。」 …確かに、世界を回るって面白そうだな。 私は海外は愚か、国内各地すら行ったことがない。ずっと…お屋敷の中が私の世界の全てだったから。 けれど、智樹さんはよく海外に行っていて、訪れた場所を毎回スケッチして来て見せてくれた。 その絵と智樹さんの話にいつも心を躍らせていたっけ。 それだけで、まだ見ぬ世界が…とても輝いて見えた。 「あの…ニューヨークは、真人様も行かれた事があるのですか?」 瑞稀様が度々訪れる街の話を聞きたいと思い聞いたニューヨークの事。 途端、見つめた先の黒めがちな真人様の瞳は揺れて、笑顔が少しだけまた寂しさを纏った。 聞いちゃいけなかった…のかな? 躊躇いの念が生まれた私に気がついたのか、誤魔化す様に真人の掌が私の頭にぽんと乗る。 「…数年前に家族で行ったきりかな、ニューヨークは。その時、都会過ぎて気後れしちゃってさ。それっきり。 …いつか行く時がくれば行くかな。巡り合わせでしょ?こういうのってさ。」 最後のモールをツリーに巻く真人様の表情は穏やかながら少し寂しそうにも見えた。 .
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