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◇
「あーのぼせた…」
兄弟水入らずだと、半ば強引にマコに風呂に一緒に入らされ、そして長湯。
どうなってんだよ、マコは。
何でこの歳になってもテンションが子供の時と一緒なんだよ…。
久々に感じる、何とも言えない疲労感。
溜息付きながらトビラを開けたら、オーナメントの箱を片付ける咲月の姿があった。
「も、申し訳ございません。お風呂の間にと思ったのですが、他の仕事を片付けていたら遅くなってしまいまして。」
「いいよ、ここまで一気に飾ったんだし、収納箱の量、結構な量だから。ゆっくりやって?」
「頑張ったね」とツリーを見上げる俺に微笑むその瞳が少し揺れてるのが見て取れた。
……思い出してるな、前の屋敷の事。
咲月の腕を掴み立ち上がらせるとそのまま、腕の中に閉じ込めた。
「俺と話してんのに『智樹さん』?」
「っ!…すみません、その…。」
……こういう時、嘘でも『違う』と言えば簡単に切り抜けられるのに。どうもこの人って真面目で対応力ゼロだよね。
「お二人が仲良くされてるのを見て、失礼ながら『兄弟っていいな』などと思ってしまいまして…。」
俺と真人を見て、『兄貴の“智樹”』を思い出す、ね。
まあ…悪くない答えかな。
「会いたくなった?」
「……。」
ほんと、正直。
でも、だから安心するってのもあるんだけどね、咲月と話すと。
うわべでは無い言葉が沢山聞けるから、咲月は。
「別に会いに行ったらいいじゃない、智樹さんに。」
「はい…」
ああ、でもそうか。次回は圭介を同行させようと思ってたんだったな。
「咲月、申し訳ないんだけど、次に行く時はちょっと前に教えてくれる?
薮に一回、ついて行って貰おうかなと思って。」
「は…い。」
腕の中からキョトンと不思議そうに俺を見上げる咲月に笑顔を返して、頭を撫でてやる。
「俺が会いに行くの許したって分かればさ、向こうも無下に『会いに来るな』とは言えないんじゃない?」
咲月の瞳が潤みを増して、少しだけ唇が弧を描いた。
……いっつも思うんだけど。
「瑞稀様…そこまで気を回して頂いて何とお礼を申し上げてよいか。」
本当に綺麗だよね、咲月の微笑みって。
初めて見たときからずっとさ、俺はそれに捕われっぱなしだって、知ってる?
「別に?許したからには気兼ねなく会って欲しいだけだから。」
コツンとおでこをつけたらくすぐったそうにして、より微笑みが綺麗になった気がした。
重ねた唇がこの上なく柔らかくて甘く感じて心がすーって癒される。啄む様なキスを繰り返したらおずおずと背中に手が回って来て遠慮がちに抱き寄せられた。
その行為だけで目頭が何故か熱くなって慌てて誤摩化す様に再びおでこを少し擦り合せる。
嬉しくて泣きそうとかさ…ガキじゃないんだから。
相変わらずくすぐったそうに微笑む咲月にギュッと胸が掴まれて、またその唇を捕らえた。
そのままスルリとリボンを片手で解く。
「み、瑞稀様…」
「今日はもう、仕事終わりにしよっか。」
「あ、あの…片付けが…。」
「いいよ、多少散らかってたって。明日の朝にでも片付けて?」
服の上から掌をその身体に這わせて行ったら少し咲月の身体が強ばる。
首筋に唇をつけてそのまま耳元まで這わせたら、分かり易く、頬も首も熱を持って赤く染まる咲月に、どうしようもなく気持ちが高ぶった。
…早く帰れるきっかけをくれた真人に感謝しないとだな、これ。
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