突然の訪問者

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「お休みなさいませ。」 おじぎをして去って行った咲月に真人はまた「ありがとう!」と掌をまたヒラヒラさせて見送る。 「咲月ちゃんて、可愛いよね!」 俺の方に振り返ったその表情が嬉しそうで、何となく嫌な予感が過ぎった。 「まあ…ボケっとしている所はあるけど。よく、働くよ、あの人。」 「瑞稀は…好みじゃないの?」 タブレット画面をスライドする指が少しぴくりと反応してしまう。 「好み…かと言われると、ちょっと違うかも。」 後から考えれば、ちゃんと真人には話しておくべきだったのかもしれないと省みたけれど。この時は冷静ではなかったんだと思う。 咲月との関係を真人に話すのは時期尚早な気がして、無難な答えで返してしまった。 「ふうん…そっか。」 「真人は?ああ言うタイプ」 聞かなきゃいいのに、聞いたのも、嫌な予感が万が一でも違って欲しいと信じたかったから。 …けれど、無情にも返ってくる答えは予感通りで。 「俺?俺は…うん、結構好みかも!」 『時期尚早』なんてただの言い訳でしかない。 真人が咲月に抱いているほのかな“好意”に気が付いていたから、俺は言えなかったんだ、本当の事を。 「今日、ツリー飾りながら色々話したけど、何か気取らないって言うか、反応が正直っていうかさ…目の前の事に真剣だし。」 顔を綻ばせて楽しそうに咲月の話をする真人に少しだけ胸が苦しくなる。 「ちょっとおっちょこちょいっぽい所もあるけど、そこがまた、魅力だよ、咲月ちゃんは。」 「…なるほどね。」 俺が苦笑いで相槌打ったら真人が急にそこで言葉を途切れさせる。 「…真人?」 タブレットから顔を上げたら、いつもの柔らかい表情に戻ったけれど、一瞬真顔になっていたのは確か。その真意を後々知ることに、俺はなるんだけれど、この時は全くわからなかった。 「おし!寝よう!瑞稀!」 「俺まだ仕事あるから。」 「おりゃっ!」 「あっ!何すんだ、タブレット返せ!わかった、わかったから。だから返せって…。」 その後も、真人は何だかんだと昔話や昨今の話に花を咲かせていたけれど、眠りにつくまで、一切咲月の話はしなかった。 .
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