突然の訪問者

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. 「はあ…」 早朝の冬の寒空の中で吐く息は、フワリと白い色に変化して消えてく。 けれど 「ふう…」 今日は消える前にすぐに次の溜息が飛び出して来る 「…何か、過呼吸になりそうなんだけど」 若干箒に凭れながら門の近辺を掃いてたら、横から面白そうな声が降って来た。 「あ…涼太さんおはようございます。」 「随分覇気がねえな…主人が二人に増えてそんなに大変?」 「いえ、そのような事は…」 お二人の仲良しぶりを見ていると、こちらまで心穏やかになるから。 瑞稀様の表情がイキイキして見えて私も心穏やかにぐっすり眠れる…はずだった昨晩。 シャワー浴びるのに脱衣所の姿見の前に立った途端に、何となく現実に引き戻された。 綺麗だったな…上田さん。 『優秀な秘書』 瑞稀様の言葉が脳裏を過ぎる。 綺麗な上に、仕事も出来るなんて 完璧な人って居るんだな…。 私なんてちんちくりんだし、オーナメントすら上手く編めないし。 何となく、自己嫌悪に陥り、そのままそれを引きずって玄関掃除に来た今朝。 微かに残るタイヤの跡見たら余計に思い出しちゃって、繰り返し溜息をつく有様。 「…なに、瑞稀、とケンカでもした?」 ケンカ…出来る様な立場じゃないもん。 まして、『上田さんが綺麗だからモヤモヤしてます!』なんてさ…。 「…私はメイドですから。」 そう言って再び掃き始めた私に涼太さんは「ふーん」と相槌打ってから、少しニヤリと笑う。 「咲月、またガーベラ咲いてんから、温室来いよ。頭にのっけてやる」 突然私の腕を引っ張り出した。 『次は一輪挿し貰っといで?』 こ、これは…きちんとお断りをしないと。 「あの…自分で乗っけますので…」 引っ張られながら慌ててお断り。 けれど涼太さんは更に意味有り気に笑う。 「問答無用」 も、問答無用?! どう言う事?! 涼太さんの答えに慌ててる間に温室まで辿り着き、束にしてる髪の毛の根本にさされる。 「さ、今日もご主人様の出発の仕度、張り切って手伝って来いよ?」 顎でクイッと私の後ろをさす涼太さん。 ……え? 振り返ったらそこには、温室の入り口で小首をかしげ、真顔でこちらを見ていダウン姿の瑞稀様の姿があった。 …これ、もしかしなくても、お花をさして貰う所を見られてた…よね。 血の気が引いた私の背中を 「頑張って?」 ポンって軽く涼太さんが押した。 .
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