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◇
「咲月ちゃん大丈夫かな~」
お茶の支度して、ワゴンを押して来たマコが俺にお茶を渡し様にそんな事をぽつりと呟く。
「ずっと上の空でさあ…仕舞いにはやけどまでしちゃって。」
…それ、マコと居て緊張でもしてたからでしょ、どうせ。
「あの人、ボケぼけしてるとこあるからね、大にして。」
口に含んだ紅茶がやけに苦みを帯びてる。
「マコ、苦い。」
「え?!ほんとに…?ってほんとだ!これ、苦い!」
「ったく…お茶の葉の分量間違えるとか…どうなんだよ、メイドとして。」
「そう言う所が可愛いんだよ、咲月ちゃんは!」
「…マコ、本気?」
苦笑いした俺に、マコが少し身を乗り出す。
「本気…なのかな?良くわからないけど、かなり好きかも。咲月ちゃんは。」
ああ…やっぱりね。
こんな展開になんじゃねーかなって、少しは予想してたよ、始めから。
「咲月ちゃんにさ、彼氏いないの?って聞いたら、『いない』って言ってたんだよね!」
…何だよそれ。
だったら、俺は何なんだって話だけど。
ああ…そうか。
俺の…主人の機嫌取りたくて、口から出任せ言って浮かれた俺を手玉に取ってたって事?
「……。」
…何考えてんだか。
咲月がそんな器用な事、出来るわけないのは100も承知だろうが。
…って、何でこんなにグルグル葛藤してんだ、俺は。
マコが気に入ったんだから、もうそれでいい話だろ。
咲月だって、俺みたいな気分屋のヤツに振り回されるより、明るくて優しいマコと居た方が安心出来るだろうし。
俺の出番は、終わり。
「……。」
終わり…。
苛立ちが気持ちを込み上げさせて、思わずふっと息を吐き出した。
『このままじゃいけない』
どうしてもそう思う自分がいる。
こんな事、初めてかも
“あの時”だってすんなり、『はい、そうですか』と心に収められたのに。
持ってたタブレットの電源を切って立ち上がった。
「マコ、ごめん。もうそろそろ、俺、出掛ける準備しなきゃいけないから。」
「え?もう?!」
「まあ…これからいくらでも話できるでしょ?一緒に住んでるんだから。」
「あ~…うん。まあ…」
この時のマコの苦笑いに気が付かなかったのは多分、咲月の事で頭がいっぱいだったから。
所詮さ、追いつめられると、こうやって周りに目が行かなくなる、ちっぽけな人間なんだよね、俺は。
「じゃあ、瑞稀、また、夜ね!」
そう言って出て行ったマコと入れ替わりで圭介がやって来た。
「今朝は申し訳ありませんでした。」
「いや、俺が勝手に早く起きただけだから。」
ネクタイ締めながら笑顔を作ってそう答えたら、いつもの優しい笑みで俺を見返す圭介。
「今日はお帰りになりますか?」
「わからない。昨日キャンセルした仕事も溜まってるし、今日明日位は帰れないかも。」
…ちょっと咲月もマコも居ない所で考えたいし、色々と。
気持ちをね…きちんと落ち着かせないと。
「かしこまりました。真人様のお誕生日は…。」
「なるべく帰って来る様にするけど、なんせ24日だからね。
会社の関係で予定がはいるかもしんない。皆で祝ってやってよ。俺は参加出来たらするから。」
去年も、なんだかんだ、24日、25日は忙しかったし。
「では、23日はこちらでお過ごし出来る様、“ご用意”をしておきます。」
「用意…?」
圭介の表情が、どこか少し好戦的な色を纏う。
唇の片端をクッとあげた。
「…手放したくないなら、それなりに頑張んなきゃいけない時もあると思うよ、瑞稀。
相手が誰であろうとさ、同じ土俵に上がんない限り何も変わらないでしょ?」
「え…?」
「…これは失礼を。」
眉間に皺を寄せた俺を手慣れた所作で、廊下へ出る様に促す圭介。
「そろそろお時間です。お車へ参りましょう、瑞稀様」
いつもの上品な綺麗な笑みを浮かべた。
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