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「待たせてごめんな。で、なんでわざわざ本屋でスマホいじってんの?」
来て早々、せっかくの本屋なんだから紙ベースで本を読めと言いたげな彼。
「なんとなく。ねえ知ってた?横書きの小説を発見したの。」
その本を取って手渡そうとしたら、いいよいいよと手を振って拒まれた。
「やっと見つけたかー。そうかそうか。」
こんなに嬉しそうに笑ってくれるのは初めてだ。
だけど嬉しそうなはずの目がこわい。
ほんとに嬉しいなら、もっと…なんていうか無防備に焦点ぼかしてくれないかな。
「それ僕が書いたやつ。書籍化されちゃった。ビックリさせたくて内緒にしてたけど。どう?タイトルちゃんと見た?」
ああ、そういうこと?改めてタイトルを眺める。
『君を殺めた僕のタクティクス99』
大人向けのタイトルじゃなく子ども騙しな…
そして改めて満足気な彼の顔を見上げれば、今までこんなに見つめられたことがあったかなと、良いように考えるしかない。
「知ってる本なの?」
「言ったろ?僕が書いたんだって。」
温厚な人柄で、時間に少しルーズ。
そんな彼が「殺めた」なんてタイトルとは、案外物騒だ。付き合っていても気づかなかった。
でも表現の世界なら。
無かったことにしたい程の狂気の断片が、私にだってあるかもしれない。
表現者は誰の心にもある狂気を土の中から掘り起こして作品に仕立てることができる。
共感するも俯瞰するも、あとは読み手次第だ。ノンフィクションかファンタジーか、作品のジャンルだって読者の投票で決めればいいくらいだよね。
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