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彼の表情と表紙の文字を代わる代わる見比べながら、ページをパラパラ開いた。
横書きのページには章ごとに詳細な言葉がまるで魔法のレシピよろしく記されているみたい、それだけ見れば充分。あとは意味のない行動だ。読みたくなんかない。ばかばかし。
パタンと閉じた。棚に戻そう、その前に彼にはっきり言ってやる。
「出版おめでと。書籍なんて羨ましいわ。共感する読者が案外多いのね。
もう帰る。私、リアルとファンタジーの区別すらできないタイプは苦手なの。」
「アハハ…君の存在こそが、とっくにファンタジーなくせに。」
なによ。私が死んだ人みたいに。
「区別できてないのは君の方だ。リアルを見てごらんって。」
「見てるつもりよ?」
「つもり?ホント笑わせてくれる、君がリアルと思い込んでいるこの世界はね、脈絡ない文字だけの構成。僕以外に実体が何もない。
だろ?僕のことだってそうさ、そもそも僕の名前知ってんの?」
名前?…
慌ててさっきの本の作家名を探す。
いや、違う。この名前でなくて、彼の本名、私は彼を何と呼んでいたのか?
「じゃあこの本屋の看板なんて…目に入ってないよね。本屋にいるはずの店員は見たかい?客はいるかい?」
「お客さんならいるわよ!あそこ」
ムキになって客を指して気がついた。客の背格好も性別も黒ぼんやりとして、ただ「客A」という大きな名札をつけているだけの、何?あれ
慌てて小さな店内をキョロキョロ見回してようやく見つけたもう1人の顔も無い影には「客B」の名札、…
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