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「なーに、ここは『シニフィアン』という名のリアルな本屋。僕にはね、店員も客もちゃんと存在のままに説明できる。でも何故君にはできないんだろうね?アハハ…
君の投稿する小説はどれもすっからかん。
物質と1対1で対応する筈の文字がチグハグで、脇役も背景も出鱈目。
何故?どうして?」
動揺が煽られるうちに、何か乾いた音が聞こえた気がした。
「今日も更新してたよね。すっからかんな言葉だけ空回りさせて文字数増やしてディスプレイに貼り付けて
いくら頑張ったって誰も読まないのに、」
硬くて薄い小さな欠片が落ちるような気配
「無理もないよね。君が存在するこの世界は君が携帯小説で描く設定そのものだから。
僕のことが全てみたいだけど頭の中それだけ?ストーリーも何も…アハハハ
何にも見えちゃいないだろ?見る気もないか。
だよねー。
だってさ、」
「言わないで!!」
それ以上は…
だって、私の周囲には縦と横、整然と貼りついた文字
本棚の本の列だと錯覚していた無秩序なフォント
文字を隙間なく埋め込み取り囲む、六面体の巨大なディスプレイ
壁となって私の存在をこの世界の空間に保証してくれた架空のディスプレイから奇妙な文字列が、
ポロ…ポロ…
剥がれ堕ちていく。
ひらがなが、漢字が、アルファベットが、アラビア数字が、
ヘルベチカが、ニューシネマが、ニコラスコシャンが、ジェリービーンズが、
今ゆっくりパラリパラリこぼれて床に積み重なっていく。
隠しコマンドで重力に捉えられた文字のように
もうやめて…
今も一つ、また一つ、600000語の文字は各々堕ちる毎に加速して、みるみる壁は崩壊している。
居てはいけない私を護ってくれた文字のフィクション、彼はそんな物の脆さをトドメの言葉を吐いて崩落させガラクタの山にしようとしている。
それでもまだ私は現実を直視できない。
「いい人」「憧れの先輩」「温厚」「時間にルーズ」そして新しく加わったばかりの「物騒な表現者」、幾つかの名札を貼り付けた名無しの彼が私から本を取り上げ、99章のページを開いて目の前に押し付けたせいで、
私の目の前は真っ暗だ。
「リアルでは君は1年3ヶ月前にもう…亡くなってるんだから。」
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