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追い払う彼は、ぐずぐずする私に容赦なかった。
待ち合わせしたり、面白い本を勧めてくれたり、それだけでも幸せのストーリーを膨らますには充分過ぎる言い種で。
だけどこんなやり方って…確かに名前も知らない彼に恋をした。でも思い描いた彼とあまりにかけ離れ過ぎて、気づけばさっきまで付いていた彼の名札までもが堕ちて無くなって、
そこに居るのは、目をギョロつかせ大口を開け怒り狂った形相を晒した1人の男。
もう、やだ。
お呼びでない本屋『シニフィアン』をプイッと出ると、確かに何故気づいてなかったんだろう、風が吹いていて、実体が朽ちて失くなった私なんて、遮る壁まで失ったから、この澄み渡る空の彼方まで飛ばされそうじゃないか。
立ち止まり振り返った。彼の言う通りね。投稿サイトは文字ばかりで居心地よかった。でもこんなにもリアルな意味をもつ物質に溢れる世界は私には息苦しい。涙が出るほど。
「もういい!分かった!風の音も匂いも、ここには沢山の人たちが泣いたり笑ったりしながら生きていて、
そうよ、私はあなたのことが好きで好きで忘れられなくて、他は何も要らなくて、
でももうずっと前に死んでたの。あなたに何も伝える前にね。帰るったって、…
あとはこの世界から消えるだけ!
さよなら!
ただ、最後にこんな形で突き放されたくなかったよ!」
帰り道はどこ?風に喚く私を気にする人もいない。
元々実体が存在しないのだから。
ドローンが落ちてくるんでしょ?
怖くない。だってどうせ痛くもなんともないから、
さあ!
「待て!」
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