女絵

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「そうだった。 今日はお師匠の使い走りで来たんです。 〝そろそろ仕上がってる頃じゃないか? 様子を見て来い〟 と言われまして」 峰弥と呼ばれた少年が、犬のような瞳を輝かせながら、月雲を見て言った。 「まだだな」 相手の一言に、しょんぼりと肩を落とす峰弥。 「そうですか。 版元に急かされてるみたい。 こんなことを頼める立場じゃないのはわかってるんですけれど、出来るだけ早めにお願いしますね」 二人のやりとりを見ていた茅野が、不思議そうに口を挟む。 「誰なの? この子。 あんたとどういう関係?」 「どういう関係でもねぇよ」 月雲は面倒くさそうに言い捨てたけれど、少年は根っからの愛想よしだった。 「あ! 自己紹介が遅れました。 絵師見習いの峰弥と申します。 以後お見知りおきを……」 「時に蜂弥。じじいの調子はどうだよ?」 少年の言葉を遮るようにして、月雲がぶっきらぼうに問いかける。 「あぁ、そうですね。 あいかわらずです。 まだしばらくは、あなたの助けが必要みたい」 するとまた、茅野が会話に首を突っ込んできた。 「ちょっとなんだい? じじいって永興殿のこと? あの人どこか悪いの? 昨日あったときは元気だったけどね。 あっちのほうも」 「あっちのほうは、だろ。 蜂弥、お前じじいに伝えておいてくれないか? 依頼は今度で最後にする、と」 「え?」 少年はきょとんと両目を見開き、月雲を見た。 「次の絵を仕上げたら、俺はこの世界と縁を切るよ」 「そんな。もったいない! 困ります」 「引退する。 描くのは飽きた。 しまいだ」 ………………………
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