13人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだった。
今日はお師匠の使い走りで来たんです。
〝そろそろ仕上がってる頃じゃないか? 様子を見て来い〟 と言われまして」
峰弥と呼ばれた少年が、犬のような瞳を輝かせながら、月雲を見て言った。
「まだだな」
相手の一言に、しょんぼりと肩を落とす峰弥。
「そうですか。 版元に急かされてるみたい。
こんなことを頼める立場じゃないのはわかってるんですけれど、出来るだけ早めにお願いしますね」
二人のやりとりを見ていた茅野が、不思議そうに口を挟む。
「誰なの? この子。 あんたとどういう関係?」
「どういう関係でもねぇよ」
月雲は面倒くさそうに言い捨てたけれど、少年は根っからの愛想よしだった。
「あ! 自己紹介が遅れました。
絵師見習いの峰弥と申します。 以後お見知りおきを……」
「時に蜂弥。じじいの調子はどうだよ?」
少年の言葉を遮るようにして、月雲がぶっきらぼうに問いかける。
「あぁ、そうですね。 あいかわらずです。
まだしばらくは、あなたの助けが必要みたい」
するとまた、茅野が会話に首を突っ込んできた。
「ちょっとなんだい?
じじいって永興殿のこと? あの人どこか悪いの?
昨日あったときは元気だったけどね。
あっちのほうも」
「あっちのほうは、だろ。
蜂弥、お前じじいに伝えておいてくれないか?
依頼は今度で最後にする、と」
「え?」
少年はきょとんと両目を見開き、月雲を見た。
「次の絵を仕上げたら、俺はこの世界と縁を切るよ」
「そんな。もったいない! 困ります」
「引退する。 描くのは飽きた。 しまいだ」
………………………
最初のコメントを投稿しよう!