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「けど世の中、そう簡単にはいかねぇよ。
まともに描いても、いっこうに誰の目にもとまりゃしないし、売れもしない。
こんなんじゃ、いつまでたっても埒があかねぇ。
その前に、小花の身が持たなくなっちまう。
だから俺は手っ取り早く稼ぐことにしたんだ。
名声とか成功とか、そんなのはいらない。
救い出してやるには、とりあえず銭が必要。
手段なんか選んじゃいられない。
くだらないとか、描きたくないとか、そんなのは贅沢だ。
小花のためには、そうするしかないと自分に言い聞かせ、今までずっとやってきた」
「あんた……じゃあ」
月雲が立ち止まったのは川のほとり。
月の明るい夜に、殺された小花の躯がそこにあるとも知らず、茅野が二階の部屋の窓から見下ろしていた場所。
翌朝になって、彼女が無残な姿で発見された、草むらの……。
「その結果がこの有り様だよ。
けっきょく助けてやることなんてできなかった。
笑えばいいさ。 絵もやめる。 二度と描かない。
あの晩ここで……あいつの亡骸の前で、俺はそう誓ったんだ」
「…………」
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