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「男は、絵草紙屋の倅でした。
確かに、若旦那の常日頃からの放蕩のせいで、店の経営は火の車だったようですが。
〝風呂敷の件は知らない。 持ち込んだ小僧に聞いてくれ〟
などと言い張るので、今、その者を探していたところです。
〝峰弥〟 という名の使い走りの少年なのですが、お二方とも心当たりはありませんか?」
「…………」
黙り込む月雲の肘を、茅野がつつく。
「峰弥ってのは、さっき若い小僧の名前じゃないか」
「…………」
それでも月雲は返事をしなかった。
難しい表情をして、足元の一点を見つめるばかり。
まるで、いつかの夜のように。
「どうしたんだよ?」
茅野が顔をのぞき込んでも、月雲は視線を動かさなかった。
「居場所を知ってるなら、教えてください。 会って事情を聞きたい」
蔵之介の言葉も月雲の耳には届いてない様子。
ただ、目を見開いたまま両手で頭を抱え、そうして震える声で、月雲は言った。
「あの風呂敷を持ち込んだのが峰弥だとしたら
懺悔しなきゃならねぇのは、俺のほうだ。
小花が死んじまったのは、俺のせいかもしれない」
「はあ?」
「あいつは、俺が春画の仕事ばかり受けるのを嫌がっていたから。
あなたには才があるんだからと、愚痴ばかりの俺を、いつも文(ふみ)で励ましてきた。
間違いねぇ。 だから、きっと……」
………………
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