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「わかんないもんだよねぇ、人生なんて」
茅野が一人つぶやいた。
寄り添う老絵師に酌をしながら。
「何の話だよ?」
「だから人生の話ですよ」
ははは、永興が軽く笑って、また問いかける。
「そんなことより、罪人は捕まったのか?」
「そうね。 おおむね」
「そりゃ良かったな」
「だけどまだ、引っかかってることがあるの、あたし」
「何だ?」
茅野が艶っぽく頭を傾けたので、鬢にさした金のかんざしが、きらりと揺れた。
「あの晩、あなたが身にまとっていた香りのこと」
「香り?」
「他の女のにおいさせやがって、と、あの時は内心悔しかったけれど、今思えば何だかどこかで嗅いだことのある香のような気がしてしょうがなくてねぇ」
「気のせいだろ?」
「教えてくれない?
あの晩、あたしの元に来る前、どこで誰と一緒だったの?」
「何の話をしてるのかわからねぇな」
「じゃあ、教えてあげるから考えてみて。
あなたが、せこい真似してお金を稼いでるのを知ってる。
絵の魂を売って生きてるのは、いったい誰でしょうね?」
「…………」
絶句する絵師の顔を、じっと見つめる茅野。
その瞳には長年、苦界で生きてきた女の度胸と覚悟がにじみ出ていた。
「何をしたのか、知りたい。
それとも今すぐ、あたしを殺すかい?
……小花と同じようにして」
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