枕絵

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うぐっ! それは一瞬の出来事だった。 つかんだ帯紐を、茅野の首に手早く巻きつける永興。 苦しげに呻く茅野の額に、じわりと脂汗が浮きあがる。 瞬間、襖がさっと開いた。 飛び出してきた月雲が、永興の額を蹴り上げる。 と、同時に、蔵之介が軽い所作で相手の腕を捻じりあげ、動きを止めた。 「さ、観念しなよ。 ご老人」 「てめぇが小花を殺ったんだな。 くそじじい!」 目の前の蔵之介の体を押しのけ、永興の髪を乱暴につかみ、その顔をにらみつける月雲。 「己の私利私欲のために、人を利用するだけでなく、命まで奪うとは。 貴様の行きつくところは地獄だな」 無言のまま月雲から目を背けた永興は、蔵之介の腕を振り払い、己の懐に片手を差し込んだかと思うと、仕込んでいた小刀を月雲の喉元めがけ振り払う。 不意打ちの攻撃で月雲がひるんだ隙に、老人とは思えない早業で身を翻し、そのまま部屋の外の階段を駆けおりていった。 「あっ」 茅野の声が響くより前に、畳を蹴った蔵之介。 そのまま二階の小部屋の窓枠に足をかけひらり。 袖を羽のようにはためかせ、華麗に地上へと飛び降りた。 「あぁ……」 引き止める間もなく部屋をあとにした二人。 残された茅野は、よろよろと畳を這い、月雲のところへ、にじり寄る。 「大丈夫かい? お月さん」 「あんたこそ」 「じいさん。 ただ者じゃないね、あの身のこなし」 「若い頃に、そうとう悪さしてたっていう噂は、本当かもしれんな」 「ま、だからこそ今夜は、坊やの腕の見せ所もあるってもんじゃないの?」 そう言って、開け放たれた窓の外に目をやる茅野。 月雲がそれに続く。
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