女絵

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「ずいぶん、ご無沙汰じゃないかい?」 その晩、茅野は男の体にしなだれかかりながら酒をつぎ、唇を尖らせた。 「そうでもないだろう」 手にした杯に口をつけ、相手は笑う。 「どうせまた、若い娘のところに入り浸っているのでしょ」 客の耳元で甘ったるく、恨み言をささやく茅野。 部屋には二人きりだった。 男は江戸で有名な浮世絵師。 華美かつ風雅で知られる鹿角派の重鎮〝永興〟。 すでにそこそこの年齢だが、老いてなお、かねてよりの好色は変わらず。 この界隈でも、ずいぶん羽振りがいいことで知られていた。 「そんなわけないだろ」 盃の酒を飲み干すと、なだめるような手つきで茅野の腰を撫で、老絵師は笑った。 「お前一人だよ。 わしにはな」 長く茅野の上客だった男はそう言うが、このところ、あまり店に顔を見せなくなっている。 「よくいうよ、ふん」 茅野は唇を尖らせ、体を離した。 じゃあ聞きたい。 襟元にかすかに残る、その香(こう)はなんなのか? と。 「あ、ちょっと待て待て。かやの」 それから指先の動き。 以前と変わってる。 今まで一度も、そんな触り方したことないくせに。 あぁあぁ、いやだいやだ。 近頃どんどん客が離れていく。 誰も口には出さないが、年増の遊女に用はないって言われてるよう。 いくら若づくりしたって、脱いだらばれる。 肌の張りが違う。 肉の付き方も、だ。
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