枕絵

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「永興が全てを白状しました。 月雲、あなたは影武者だったのですね。 自身の創作に行き詰り、思い悩んだすえ筆をとれなくなった永興の代わりに、彼名義で絵を描いていた。 それ相応の銭と引き換えに。 その事実を知った小花が、馴染み客だった絵草紙屋の若旦那に伝えたんです。 相手の懐に余裕がないことを知っていたから、それをねたに永興をゆするよう、彼女が持ち掛けたんでしょう」 「…………」 蔵之介の話に、耳を傾ける茅野と月雲。 その時ばかりは、普段口うるさい茅野も、神妙な面持ちで聞き入っていた。 「永興からすれば、小花を殺すことは一石二鳥だった。 小花の口を塞げば、苦労して築き上げてきた自分の名声が地に落ちることもなく〝偽絵師〟と、世間から非難されるような事態にもならない。 同時に若旦那が下手人となれば事の真相を知る者も消える。 弟子に言いつけ、刷り上がった絵を小花の風呂敷に包んで店に持ち込むなんて、おそらく造作もないことだったでしょう」 「なるほどな。 坊ちゃんのわりには、名推理と言いたいところだが、残念ながら一つだけ間違ってる」 月雲は静かな声で、そう言った。 「何ですか?」 「小花がゆすりを持ち掛けたんじゃねぇよ。 あいつは、じじいに、やめさせたかっただけだ。 俺が描いた絵は、例えどんなものだろうが、俺の名で世間に出され、評価されるべきだと考えてた」 「どういうこと?」 「ずっと信じてくれていたんだ。 いつか必ず、俺が絵の世界で成功できるって。 こんな、俺のことを……」
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