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「あの……茅野さんから聞きました。
本当に、やめてしまうんですか? 描くの。
これからは、お金のためじゃなくて、好きなものを好きなように描いていけばいいんじゃないですか?
絵草紙屋に置いてあったあなたの作品が、ちらっとだけ目に入ったのですけど、すごく綺麗な色使いだったし……」
蔵之介の言葉に、月雲がふと笑いを漏らす。
「苦労知らずの坊ちゃんは甘いね。
世間の荒波に揉まれてないから。
もういいよ。 俺は疲れた。 富も名声もいらない。
そんなもののための情熱も消え失せた。
よくわからねぇんだ。
小花が死んだのに。 これ以上。 何のために……」
「ちょっと! 残されたあんたがそんなのでどうするの!
私は小花の菩提に報告しなきゃいけないだろ!
あんたが死んだせいで、好いた男が腑抜けになっちまった。
これから一体どうすんだい! ってね」
強い調子で食ってかかる茅野に対し、煩わしげに月雲が返す。
「なんだよ。またうるせぇな。
何の関係もない他人のことだろ、ほっとけよ」
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