女絵

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「あれ? 何してるんだい、あの男」 会話に辟易した茅野は、廓の二階の格子窓に寄りかかり、外を見やりながら呟いた。 「何だ?」 永興が茅野の背中に重なるような格好で、横から顔を出し、外の夜闇をのぞく。 「ほら、あんなところで、一人ぼんやり佇んで」 窓下の川辺の草むらに、男がぽつんと立っていた。 月明かりに照らされながら、何もせず、じっとうつむいて足元を眺めている。 「ありゃあ、どっかで見たことある野郎だな。 あぁそうだ、思い出した。 最近はやりの春画描きだよ」 「春画?」 茅野が怪訝な面持ちで聞き返した。 「そう。 描く女が艶っぽいと言われ、もてはやされてる」 「ふぅん。 ま、ちまたの寂しい男どもには、上手く描けた絵なんかよりも、そんなののほうが、ずっとありがたいものなんだろ」 「売れりゃ何でもいいってもんじゃねぇよ。 こっちは線の一本一本にまで、感情こめて描いてるんだ」 そんな老絵師の言葉を、茅野は笑い飛ばした。 「あはは。 あたしに芸術論を語られてもねぇ。 それにしても、そんな男がどうして、あんな場所でぼんやりしてるんだろう」 「どうせまた、女の体のことでも考えてやがるんだろうよ」 「そりゃあんたも同じだろ?」 茅野に流し目を送られ、受け止めた永興がにやりと笑う。 「おいおい、あんな輩と一緒にするなよ」 「もう。 ちゃんと、あたしのことを考えておくれよ。 お気に入りの若い娘の体じゃなくてね」 「うるせぇな。 だから、おまえだけだと言ってるだろ」 ……………………
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