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「おばさ……じゃない、ちょっとお姉さん!
呼んでもいないのに、ついて来ないでくださいよ。
断りなく入ってこないで!」
慌てて立ち上がり、押しとどめる与力と格闘しながらも、遊女は畳の上の絵師にむけ怒鳴り散らす。
「だって腹がたつじゃないか!
こいつは私の可愛い妹分を、無残な姿にした張本人なんだよ!」
先ほどまで描いて貰っていた女は、茅野の剣幕に恐れをなし、すでに部屋から逃げ去ってしまった。
絵師は、興奮し喚きたてる茅野にかまわず、ことりと筆を置くと、傍らに置かれた徳利を一飲みし、おもむろに顔をあげる。
「その妹ってのは、小花のことを言ってるのか?」
「そうだよ。
ずっと実の妹のように可愛がってやってたのに。
それがこんな、いかがわしい男になぶり殺しにされるなんて。
あぁ本当に、かわいそうな娘!」
「何だか、きぃきぃうるせぇ女だな」
耳を押さえ顔をしかめる絵師の態度が、茅野の怒りに油を注ぐ。
「あの娘にはねぇ、好いた男がいたんだよ!
よく嬉しそうに手紙をしたためてた。
年季があければ、その男と一緒になりたいと言って、頬を染めてたの。
そんな、儚い女の夢も希望も奪いやがって!
私はあの子の無念を晴らしてやるんだよ。
この手で成敗してやる! どきなっ!」
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