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「ほら。だから、ちょっと待ってくださいよ。
詳しく話を聞いてからですって」
息巻く遊女を片手で制し、与力の蔵之介が、月雲に目をむけた。
「絵師さん、あんた殺された遊女とは懇意だったのか?」
「……ただの顔見知りだよ」
「客だった?」
「違う」
「では、どうして昨晩、あの場所にいたんだ?」
「……見てたんだ」
「何を?」
「死体を」
「なぜ?」
「死んだ女の体がどんなものかと思って。
絵に描けば売れるかもしれんしな。
連中は皆、この手の話題に目がねぇから」
「なんだと! この変態!
叩き斬ってやる! 死人を侮辱しやがってぇ」
与力の腰の刀を奪い取ろうと、髪を振り乱して暴れる茅野。
「嘘じゃねぇよ。
魂が抜けたあと体はどうなるのか。そのことを考えてた」
月雲が、どこか遠い目をしてそう言ったので、そのことが茅野の怒りをさらに増幅させた。
「うるさいっ! 黙れっ! この人でなし!」
「だが俺はやってない。
女を殺す理由がない。 ……殺す必要もない。
違うか?」
絵師がそう言った直後だった。
どたどたと慌ただしい足音が廊下に響いた。
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