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「長谷様!
今しがた、あやしい男を引っ捕らえて参りました!」
与力の手下らしき人間が、慌てた様子で部屋に駆け込んでくる。
「あやしい男なら、ここにいるけど……」
与力が呟くも、その場ではぁはぁと息を整えながら、同心は続けた。
「どうも、死んだ女のところへ、客として通いつめてた男のようなんですが、金の切れ目が縁の切れ目。
相手にされなくなり、女を逆恨みしていたようでして……」
「なら、そいつが犯人だ。間違いねぇな」
月雲が事も無げに断言し、それを聞いた茅野が、また頭に血をのぼらせる。
「ちょっとあんた! 人に罪をなすりつけようってのかい?
この期に及んで、根性の曲がった男だね!」
二人のやりとりを横目に、ごくりと唾をのみ込んでから、同心は顔をあげ蔵之介を見た。
「殺される前日も、二人でひどい口論をしていたのを見かけた者がおります。
たまったつけを払えとか何とか、女が迫っていたという話で……」
「なるほど」
部下の報告に対し、真剣な面持ちで頷く蔵之介。
「それで、さっそく男の身辺を調べましたところ、こんなものが……」
そう言って、相手が差し出したのは、血の付いた薄い布。
目にした瞬間、茅野と月雲が同時に声を発した。
「〝あ〟」
「こりゃ、小花がずっと大事にしてた風呂敷じゃないか!」
「あぁ。 俺が昔あいつにやったものだよ」
二人の言葉に、蔵之介が大きく息をつく。
「女は確か、殴られたうえに首を絞められていたんだったな。
だとしたら、殺したのはその男に違いない。
すぐ取り調べに向かおう」
………………………
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