女絵

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「あ! いたいた月雲さん! お疲れ様です! 新作見ました! 今度のも、ぶっ飛んでましたね! すごいなぁと思って、じっくり見入っちまいましたよ」 そう言って二人の会話に割って入ってきたのが、まだ青々とした月代も初々しい少年だったので、茅野は顔色を変える。 「ちょいとあんた! 何こんな子供にまで見せてるのよ。 そんな、いかがわしいものを!」 「いやいや、おねぇさん、そんなことないんです! 月雲さんの描く人物には、どれも魂が宿っているんです。 えも言われぬ情緒たっぷりにね。 不思議なことに、眺めているだけで、描かれた男女がその場面に至った経緯まで、垣間見えるような気がしてくるんです。 二人が背景に抱える壮大な物語が、絵の奥底からじんわりと染み出てくるんですよ! 素晴らしいと思いませんか?」 「わかったようなこと言ってんじゃないよ。 若造が」 茅野が呆れ笑いすると、つられたように少年がにっこり。 「今朝方だって、お師匠のお使いで絵草子屋を訪ねたのですけれど、お客さんが嬉しそうに鼻の下をのばして、月雲さんの絵を買って行くのを見ましたよ」 「はぁ。 まったく世の中狂ってるよ。 そんな物より、生身の女の体のほうが、ずっと良いと思うけどねぇ」 「そうは言っても、おねぇさんみたいに綺麗な人は、庶民には手の届かない高嶺の花ですからね」 「あらまぁ嬉しいこと言ってくれるじゃないか。 何かご褒美でもあげちゃおうかしら」 少年のおべんちゃらに、どうやら悪い気はしなかったらしい。 満足そうな茅野を見て、それまで黙っていた月雲が口を開いた。 「それで、何しに来たんだよ峰弥。 用がないならさっさと帰れ。 さもないと、世にも禍々しい毒に侵され、骨の髄まで食いつくされるぞ」 「何なの? あんた。 人を化け物みたいな言い方するんじゃないよ」
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