13人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ! いたいた月雲さん! お疲れ様です!
新作見ました! 今度のも、ぶっ飛んでましたね!
すごいなぁと思って、じっくり見入っちまいましたよ」
そう言って二人の会話に割って入ってきたのが、まだ青々とした月代も初々しい少年だったので、茅野は顔色を変える。
「ちょいとあんた!
何こんな子供にまで見せてるのよ。
そんな、いかがわしいものを!」
「いやいや、おねぇさん、そんなことないんです!
月雲さんの描く人物には、どれも魂が宿っているんです。
えも言われぬ情緒たっぷりにね。
不思議なことに、眺めているだけで、描かれた男女がその場面に至った経緯まで、垣間見えるような気がしてくるんです。
二人が背景に抱える壮大な物語が、絵の奥底からじんわりと染み出てくるんですよ!
素晴らしいと思いませんか?」
「わかったようなこと言ってんじゃないよ。 若造が」
茅野が呆れ笑いすると、つられたように少年がにっこり。
「今朝方だって、お師匠のお使いで絵草子屋を訪ねたのですけれど、お客さんが嬉しそうに鼻の下をのばして、月雲さんの絵を買って行くのを見ましたよ」
「はぁ。 まったく世の中狂ってるよ。
そんな物より、生身の女の体のほうが、ずっと良いと思うけどねぇ」
「そうは言っても、おねぇさんみたいに綺麗な人は、庶民には手の届かない高嶺の花ですからね」
「あらまぁ嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
何かご褒美でもあげちゃおうかしら」
少年のおべんちゃらに、どうやら悪い気はしなかったらしい。
満足そうな茅野を見て、それまで黙っていた月雲が口を開いた。
「それで、何しに来たんだよ峰弥。
用がないならさっさと帰れ。
さもないと、世にも禍々しい毒に侵され、骨の髄まで食いつくされるぞ」
「何なの? あんた。
人を化け物みたいな言い方するんじゃないよ」
最初のコメントを投稿しよう!