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「それ以来、海には近づくまいと誓いました」
話し終えると丁度注文した料理が来て食べましょう、と明るい声を出した。でも山村さんはすぐにはお箸を持たなかった。
「最低ですよ!賭けとか、酔った勢いとか、言い訳にもならない!」
「や、山村さん?」
「行きましょう丸井さん!」
「ちょっと…!」
山村さんは私の腕をとって店を飛び出した。山村さんは腕をつかんだまま走って、足を止めたのは砂浜。
「よかった。間に合った。」
「な、なににです…?」
いきなり走って息切れした私の体を支えて見せてくれたのは…海に沈む夕日…。
「過去は消えません。丸井さんの傷も完全には消えないかもしれない。だけどこの景色を覚えていてくれませんか?海はこんなにも美しいんです」
「…きれい」
私の中で海は最低の場所として記憶されていた。でも今のこの景色、オレンジ色の太陽が海に沈んでいくのを見て私は泣いていた。綺麗だ。本当に綺麗で山村さんが過去について怒ってくれた気持ちも嬉しくて。涙はしばらく流れ続けた。でも1つ心に引っかかることがありそれを彼に問う。
「なんで今日出会った私にここまで?」
「丸井さんの心に海の素晴らしさを刻んでほしい、じゃ理由に欠けますか?それなら、すみません」
「もう、また『すみません』なんですか?私こんな綺麗な景色は初めてです。しかも今まで最低な場所として記憶していた海でこんなに感動するなんて最高に幸せです」
「ほ、本当ですか!よかった」
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