101号室 土曜の朝

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 既に携帯を手放した右手でエアコンのリモコンを操作してドライをかけながら、態勢を仰向けに直すと体の右側で温かいものを感じる。  昨日、というよりも今日の未明だが女を連れて帰ってきていたことを改めて思い出す。  パンツの上に寝る前に貸した光太の部屋着用のTシャツという格好で女はまだぐっすり眠っている。  その長い髪から、昨日出会ったあの六本木のクラブで染み付いたのであろうタバコの匂いがして、思わず顔をしかめてしまう。  小さな溜息をつきながら、暑いだろうにもかかわらず女が腰までかけている布団をそっとひきはがしてやり、先ほど枕元に置いた携帯をもう一度手に取って、何を見るでもなくSNSやメール、ニュースアプリを巡回する。  11時15分になったらこの女を起こそう、そう決めた。  光太は夜遊びをした後の朝のこの瞬間、女を起こすのが何とはなしに憂鬱なのだ。  先延ばしにしたいから今すぐには起こさないくせに、この女とだらだらと寝続けるのも時間の無駄なのでその妥協点が11時15分なのである。  毎度のことではあるが自分の冷たさにぞっとしつつもう一度溜息をついて別のアプリを立ち上げる。
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