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1 渓流
当て所なくうろついていると、いつの間にか鋪装された県道から外れ、琥珀色の枯葉の覆う山道に入っていた。
だがそれとなく道らしき跡もあるし、耳を澄ませば県道を通る車の音も聞こえてくる。ローカル線とはいえ、バスの最終まで時間はまだ充分にあるだろう。しばらく山の散策をするのも悪くないと、私はそのまま雑木林の立ち並ぶ山に分け入った。
踏みしめる度に枯葉がパリパリと乾いた音を鳴らす中、寂しく残された枯れ枝たちが紅葉シーズンの終わりを告げていた。団栗の木の下には、まだ毬の帽子を被ったままの丸い実が敷き詰められたように落ちていた。子どもの頃に裏山で、朝から晩まで団栗を袋一杯集めていたことを思い出す。郷愁感、とはこういう感情を言うのかもしれない。
私は小さな団栗の実をひとつ拾い上げ、コートのポケットに入れた。
次第に険しくなる山道を、木の枝を杖にして歩き続ける。額に滲み始めた汗を服の袖で拭った後、コートを脱ぐ。じっとりと汗で濡れたワイシャツにひんやりとした秋風が心地良い。
見上げると、陽の光が雑木の切れ間からチカチカと瞬いていた。
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