2 鬼火

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(何だったんだ……あれは)  青い光の消え去った後を見つめて、私はしばらくぼんやりとしていた。 「夢……まさか?」  その時突然、目の前に眩い光が飛び込んでくる。 「うわっ」  あまりの目映さに、反射的に手で光を遮って顔を逸らす。ずっとこの闇の暗さに目が慣れていて、そのちかちかとした光は目が痛いくらいに眩しかった。  おそるおそる目を開けると、ようやくそれが懐中電灯の灯りであることに気付く。  茫然とする私の顔を照らしたまま、その光の方から辺りの静寂に不釣り合いな、やけに大きな声が聞こえてくる。 「生きてる?」  女の声だった。事態が飲み込めずに躊躇していると、その声は再び大声で呼びかけてくる。 「生きてるの?」  それが救助の声であることにようやく気付いた私は、光から目を伏せながら声をあげる。 「あ、ああ。大丈夫」  喉がからからに渇いているせいか、声はひどく掠れていた。 「おじさん何してんの? こんなとこで」  声の主は若い女のようだったが、逆光になって顔は見えなかった。その話し方はやけにぶっきらぼうで、遭難して途方に暮れていた私からすると、どこか暢気に思えるほどだった。 「……た、助かった」  ずっと一人きりでよほど気を張っていたのだろう。急に全身の力が抜けた私は、へたりとその場に座り込んでしまう。そんな私を見て、女は相変わらず平然と言う。 「怪我はしてないみたいね。歩ける?」 「あ、ああ。道に迷って。ひどい目にあった。こんなに山道が暗くなるなんて、思ってもみなかったもんだから」  気恥ずかしさもあり言い訳を続ける私に、女は手を伸ばしてくる。 「立てる?」  こんなか細い腕に大の男が掴まって良いのか一瞬躊躇ったが、今はそんな場合ではない。手を握ると、女は勢いよく私の体を引き起こす。  立ち上がった私の全身を、女はひとしきり懐中電灯で照らす。コートもズボンも泥だらけだったが、枯れ枝に引っ掻かれた以外に傷はなかった。  懐中電灯の薄明かりの向こうに、ぼんやりと女の顔が見えた。まだ二十歳前だろうか。少し釣り目気味の黒い瞳が、印象的だった。
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