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私はあの沢へと歩き続ける。疲労で全身は鉛のように重たく、筋肉痛の足は歩くたびにぎしぎしと悲鳴をあげた。このまま家に帰ったとしたら、山歩きなど当分したいとは思わないだろう。
だが、私はどうしても昨日の真相が知りたかった。
「……いや、違うな」
自分の思考を独り言で打ち消して、苦笑いする。
本当は、真相などどうでもよかった。物事の結果に、いくら後から理由付けをしても意味はない。女が言っていたように、理解できないことにそれらしい理由を付けて納得したがるのは、人間の悪い癖なのかもしれない。
あの女の素性が何であろうと、構わなかった。
ただひとつの思いのために、私は再びあの沢を目指そうと思ったのだ。
枯葉の覆う山道は、昨日と同じように踏みしめるたびにパリパリと乾いた音をたてる。昨日の記憶を辿りながら雑木林の中に分け入ると、あちこちの木の枝がきれいに断ち折られていることに気付く。枝の切り口はまだ緑色で、切られてからさほど時間が経っていないことを示していた。
(これは……)
それは間違いなく、昨日の夜に女が棒で断ち切っていた枝の跡だった。女が鞭のように棒をしならせながら、手際よく邪魔な枝を払っていた様子を思い出す。
だとすれば、私が女と出会った場所はそう遠くない。
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