4 対岸

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 木々の合間から射し込む眩い太陽が、私の背中を照らし続ける。  昨日この狐に出会った時に、それはもう決まっていたのかもしれない。  狐は身じろぎもせずに、ずっと私を見つめていた。  それは、確かに、私を待っている。  もうすぐ沢を渡りきるというところで、岩に足を取られ水の中に倒れ込む。 「く、そっ」  全身ずぶ濡れになったまま、対岸の縁まで這って進む。既に両足は感覚を失っていたが、手あたり次第に水面を両手で掻く。  ようやく対岸に辿り着いた私は、息を切らせながら岩にしがみつく。  顔を上げた私の目の前に居たのは、  さっきまでの金色の狐ではなく……、  ……昨日の、あの女だった。 「……君は」 「ここまで戻ってくるなんて」 「……はは、私は執念深いんだ。それが女房に逃げられた理由かもしれんが」  がくりと膝をつく私に寄り添い、女は私の肩を抱く。 「この沢を引き返せば、またあなたの日常に戻れるのに」 「それは無理だな。そんな力も残ってないよ」 「いいの? これで」 「構わんさ」  女は私を抱いたまま、その細い指を私の手に絡ませた。  その時、ぽつり、と何かが私の頬にあたる。  見上げると、澄み渡った空から雨が降っていた。 「……狐の、嫁入りか」  ちかちかと瞬く陽光の中、雲一つ無い空から透明な雨の滴が落ちてくる。  渓流の水面に、幾重にも同心円状の波紋が広がっていく。  降り続く雨が、いつまでも私たちを濡らし続けていた。           (終)
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