2 鬼火

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   *  少し眠り込んでいたのかも知れない。  鳥の飛び立つ音で、ぼんやりと目が覚めた。  虚ろな意識の中で目を開けると、真っ暗な闇がただ漠然と視界に広がっていた。自分が今何処にいるのか、しばらく分からなかった。  山からの颪風に揺れる木々のざわめきで、ようやく自分がまだ山の中に居ることを思い出す。泥で汚れている掌とふくらはぎを覆う筋肉痛で、ようやく遭難していたという現実に引き戻される。  森閑な空気の中、コートの中で身を縮め辺りを見渡してみると、遠くにぼんやりと小さな青白い灯りが見えた。そのうっすらと灯った光は、幾つも連なって木々の合間を見え隠れしていた。 「何、だ?」  目の前の雑木林の先に浮かび上がった仄青い光は、列を成してゆっくりと上下しながら私の目の前を移動していく。まるで提灯行列のように、その青白い光の帯はゆらゆらと揺れ始める。 「人……か? ま、待ってくれ!」  慌てて立ち上がってその青い灯りの方に向かって走り出すが、真っ暗な闇の中で足元の枯れ枝に足をとられて転んでしまう。その音に驚いた鳥達が、木の枝からばさばさと一斉に飛び立つ。  そしてその瞬間、浮かんでいた青白い灯火も、一瞬で目の前から消えた。 「な……」  再び辺りが静寂を取り戻す中、茫然と私はその場に座り込む。力なく膝をつく私を嘲笑うかのように、ホー、ホーという木菟(みみずく)の鳴き声が、まるで何事もなかったかのように単調なリズムで静かに聞こえてくる。
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