漫画の恋

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 路地裏を真っすぐ抜けて、角を右に曲がって、小さな黒板のあるその隣の階段下。隠れ家のような場所に、古本屋はある。  私はその道を思い出しながら進み、金属のドアノブを回して扉を開く。 「いらっしゃい」  その先で、爽やかな笑顔で出迎えてくれるこの好青年が、私は大好きだ。  初めの頃は、この店をおしゃれな喫茶店と勘違いして入って行った。  そしたら、出迎えたのは爽やかな顔立ちの良い、まるで少女漫画に出てくる男性のような好青年。私は一発で恋に落ちた。  それ以来、私は毎日この古本屋に通うようになった。  毎日通っては少女漫画のコーナーへ行き、見たことのない少女漫画を試し読みして、面白いものを見つけると買うようになっていた。  そして今日もお気に入りの本を見つけ、彼の前に本を置く。 「いらっしゃいませ」  彼は何時もの笑顔で少女漫画を持ち上げる。 「本当に好きなんですね、少女漫画」  ふいに尋ねられて驚いてしまった。私はぎこちなく首を縦に振る。 「俺も好きですよ、少女漫画」 「え?」 「意外ですか? 結構合間に読んじゃうんですよ。此処にある本」 「意外でした……お、面白いですよね。ドラマチックで、色んな人の恋模様にドキドキします」  私が答えると、彼はにこりと微笑んでお会計を提示した。これが、彼との初めての会話だった。  ・ ・ ・  家に帰り、少女漫画をめくりながら、私は彼との妄想を膨らます。こんな恋愛、彼とも出来たらな……。  そんな時、ふと視界に入ったのは机の上のペンだった。  ゆっくりと立ち上がり、おもむろにペンを取り、コピー機の中の紙を一枚取り出して、彼の似顔絵を描いてみた。以前から、キャラクターを描くのは得意だった。だから、紙の中の彼は予想以上に上手く出来上がっていた。 「……もしかして、描けるかな」  私はそう言って、紙に物語を紡ぎ出した。  それは、思いの外形を成していた。  素人ゆえ、パースやキャラクターは酷い物だったが、少女漫画を多く読破しているだけあって、その妄想力は相当なものだった。と、自分で言うのもなんだけど。 「こんな感じで、彼との恋も上手くいかないかな」  その後も、私は妄想を活力に、ペンを進めていった。
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