2人が本棚に入れています
本棚に追加
・ ・ ・
徹夜で完成させた漫画は、あらゆる漫画のパースを見直して、綺麗に描き直せば世に出せるかもしれないと思った。何より、たとえ空想でも、彼との思い出が増えて私としては嬉しい限り。今日の私は幸せづくめだった。
それだと言うのに。
「君、俺のこと好きだろ? 悪いけど俺……見た目で判断する人、嫌いだから」
私はバッサリとフラれてしまった。
悔しくて悔しくて、ベッドの上で号泣した。
悔しいけれど、それでも私のことを助けてくれたのは、この拙い漫画だった。だから……。
「絶対に作り上げてみせる」
私は買ってきた少女漫画を見ながら、枠線やキャラクターに気を付けて下描きを描き直した。
・ ・ ・
足を運んだ本屋は、やはり爽やかな好青年の待つあの店だった。
理由は、あの漫画のモデルが彼だったからだ。もっと細かい表情や仕草を見ておきたいと思い、素知らぬ顔で店に入って行った。
彼は驚いて私を見て、すぐに顔を逸らした。
対して私はその顔をちらりと見つめ、すぐに少女漫画のコーナーへと移動する。
すると、向こうは私が気になったらしい、前のめりになって覗き込んでいた。
それを私は気にするわけでも無く、何時ものようにお気に入りの漫画を見つけてレジへと移動した。
「いらっしゃいませ」
いつもより低いトーン、暗い顔。普段見せないそういう顔も良いけど、もっと明るい顔も見たいな。
「この漫画、知ってます?」
「え?」
ふいに話しかけられ、彼は困惑していた。私は大丈夫と言わんばかりに柔らかく微笑む。
「この漫画面白いですよ。始めはちょっと重いなって思ったんですけど、読んだ後の爽快感には、良い意味で裏切られました」
「そうですか、それは面白そうだな」
話題が良かったのか、彼はいつもの営業スマイルを見せて言った。
「そう、その顔ですよ」
「え?」
「私、あなたのその顔が好きなんです!」
彼は思わず目を点にしていた。言った私も、時差で驚く。
恋と意識していたら絶対に言えなかったようなことを、簡単に言ってしまうなんて。
恥ずかしかったが、それ以上に可笑しくなり、私は声を出して笑った。
「すみません、そんな深い意味は無いので気にしないで下さい」
私は頭を小さく下げて店を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!