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背中に宗助の存在を感じながら、無言で家まで歩き続けた。
アパートの階段を上ったところで……
「食事でもどうだ」
宗助がそう、私の背中に投げかける。
「結構です」
そう、短く返して自分の部屋へ駆けていきドアを勢いよく閉めた。
その瞬間、何かの糸がプツンと切れてその場にズルズルと崩れ落ちた。
さっきの宗助の言葉が何度も何度も頭の中に流れる。
『絶対に俺を好きにさせてやる』
どこから湧いてくるんだか、その自信……。
肘と肘の間に顔をうずめ、さらにギュッと自分を抱きしめた。
胸が、全力疾走したときみたいにトクトクと脈打って、顔全体が熱くなる。
「好きになんて……なるわけない」
第一、 タイプじゃない。確かにイケメンだけど、あんな自分勝手でポンコツな人……。
でも……なんかほっとけなくて、無邪気な笑い顔がかわいくて……。
「好きになんてなるわけないよね……?」
もう一度口をついてでた言葉は、なぜだか疑問形だった。
こんな、何の接点もない、住む世界の違う私を……本気で? やっぱり宗助はなんにもわかってなくて、勢いだけで言ってるんだろうか。
わからない。
わからないけど……なぜだか、嫌な気持ちはしていなかった。
「だーっ!! もう! 考えるのやめ!」
立ち上がり、靴をぬいで部屋に上がった。
とにかく、普通に。今まで通りに過ごそう。忘れよう。今日あったこと全部!
――と、思っていたけど。
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