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翌日、私は早朝に家を出た。
そっと、宗助の部屋の前を抜き足差し足で通り過ぎ、見つかるまいとコソコソ出てきたのだ。
なぜだか、宗助を避けてしまう。
どうして私、会いたくないんだろう。
誰もいない社内。
椅子に座って、リクライニングに体を預け、ギコギコと揺れる。
天井を見つめ、ボーッと蛍光灯の本数を数えていた。
だけど、そんなのは最初だけで、蛍光灯の光の残像の中に宗助の顔が浮かんでくる。
そして、今度は宗助の言葉が鼓膜の中で再生される。
「あああっ! もう!」
体を起こして、今度はデスクにおでこを置いてうなだれた。
「なんで私、意識しまくってるんだろう……」
これじゃ、まんまと宗助の言葉にしてやられてる気がして、モヤモヤしてくる。
「……柳?」
と、その時――突然後ろから声がして驚いて振り返ると、そこには太一の姿があった。
「太一……」
「なんだ、お前珍しいな。こんな早くに」
太一がそう言いながら、私の隣の席の椅子を引いて座った。
「太一こそ、早くない?」
「俺はいつもこのぐらいの時間だ」
「へー……なんでまた?」
「営業って、やることいっぱいあるんだよ。遅くまで残業するより、早く来てやる派なんだって」
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