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「せーんぱい! おはようございます」
嬉しそうに白川が私のデスクにやってくる。
そうだ、白川の存在を忘れていた。
「おはよ……」
「先輩! 昨日のリムジン最高でしたよ!」
「しーっ! 声が大きい!!」
「あっ……」
白川は私にさらに近づいて、小声で話し始めた。
「先輩は、どうだったんです?」
「……どうって、何が」
「村雲さんですよ! 一緒に帰ったんでしょ?」
「……だから、なに」
「なにって……二人ともいい感じなんでしょ?」
「はぁ!? なんでそうなるの!」
「しーっ、先輩、声大きいですよ」
「っ……!!」
咳ばらいをして、私も再び声を抑える。
「だから、あいつとは何もないって!」
「そうなんですか? でも村雲さんは先輩にぞっこんって感じだったのに」
「なっ……!? なんでそう思うの!?」
「だって、ずーっと先輩の方見てましたよ? 自分で言うのなんですけどぉ、あんなにキメキメの勝負顔したのに、本当に全然、これっぽっちも私の方見てくれなかったし。ちらって見てもすぐ先輩の方むいちゃって……あれはもう、夢中って感じ」
「う……」
それ以上声が出て来なくて、唇を巻き込んで真一文字に結んだ。
「それに、先輩との相性ばっちりって感じだったし。お似合いだなぁって」
「何がお似合いよ!」
思わずそう声を荒げて、バンっとデスクをたたいてしまった。
「先輩……落ち着いて」
白川が、まるで猛獣をなだめるように両手を私の前に突き出す。
「お、落ち着いてるわよ!」
言葉とは裏腹に、胸がバクバクと激しく音を立てる。
深呼吸して、ゆっくりと椅子に座りなおした。
「どうしちゃったんですか? なんか今日の先輩変ですよ?」
「……そんなことない」
精一杯の強がりでそう返したけど、何かがおかしいと自分でもわかっていた。
考えすぎている。明らかに考えすぎている。
頭をブンブンと振って、いつもの自分に戻ろうと努めた。
そして仕上げに、頬をぴしゃりと叩きPCに向かった。
「私、今日はロボットだから」
そう白川に宣言して、仕事を始める。
「ロボット……ですか」
「そう、ロボット!」
白川は、今日は私に絡まない方がいいと判断したのか大人しく自分の席に座った。
そして、宣言通り、私は一日ロボットになって淡々と仕事をこなした。
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