第4話『絶対に好きにならない』

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電車に乗り、最寄り駅まで帰ってきた頃にやっと口を開いた。 「私、スーパーで買うものあるから」 「スーパーとはなんだ」 「食材とか売ってるところだよ」 「なるほど、市場か」 「まぁ、そんな感じ」 「なら、俺も行く」 「どこにでもついて来るんだから……」 そうため息をつきながらも、後ろからついてくる宗助に嫌な感じがしなかった。 いつも行く、駅前のスーパー。 18時を回ったスーパーはピークを過ぎ、仕事帰りだろうか、スーツ姿の男女が数人いるぐらいだった。 「なんだここは……!? 市場ではないじゃないか!! 野菜も魚も肉も日用品も何もかもが混在している!?」 宗助はいつもの様子であたりをキョロキョロ見渡し、目を丸くしている。 すっかりこの光景にも慣れた。 気にせずにカゴを取って、野菜コーナーの方へ歩いていく。 今日はジャガイモが安い。 「ポテトサラダにしようかなぁ……」 「ポテトサラダ……?」 「御曹司のお坊ちゃんは食べたことないでしょ。庶民のサラダだもの」 「うまいのか……?」 「そりゃもう」 と、宗助がじっと私を見つめてくる。 「な、なによ……」 「食したい」 「ええっ……」 これはまさかと思うけど、まさか? 「食したい!」 二度目の、強いアピールにダメなんて言えるはずもなく……。 「わかったって……」 「礼を言う」 「だから、ありがとうって言おうか!」 「なんだ!? 肉が白い容器に入っているぞ!? 経木で包むのではないのか!?」 「経木で包むとか、どこの高級店よ……」 いつもの通り、人の話なんて聞かずに目に留まるものすべてを興味津々に見ている。 ほんと、こういう純粋なところがかわいい……かわいい? …………今かわいいって思った? ハッと我に返って、頭を振った。 何もかわいくない! これじゃ保護者じゃんっ! 鮮魚コーナーでこれまた安かったブリを購入。 ブリの照り焼きとポテサラ、それに豆腐の味噌汁、これで今日の晩御飯は決まり。
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