警報

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桃子姫がもたらした、源頼光と四天王がやって来るという情報に、 小さな集落は大さわぎです。 仁王丸は三年前から、この日が来るのを予測していました。 右往左往する人々の中、彼ひとり、おどろくほど平静です。 彼は全員を本堂の前に集めました。 「源頼光どのと四天王が間もなくここへ来るだろう。鬼使いの俺と、鬼神の守天を退治するのが彼らの使命だ。他の者は抵抗さえしなければ、命を取られることはない」 彼の言葉を聞いて、人々は無闇にさわぐのをやめました。 「京へ戻りたくない者、捕まると罰を受ける者は、山へ入り、尾根を伝って逃げろ」 「頭領はどうなさる」 仁王丸は皆に告げます。 「俺は、渡辺綱に顔を見られている」 たとえ一時は逃れても朝廷や武家に追われては、とうてい逃げ切れないことを説明しました。 「俺と守天は、ここで頼光どのや綱どのを待つ。異人の鬼使いと武人の芸と、どちらが勝るか試そうと思う」 桃子姫は中納言の姫とともに僧坊へ入り、 他の女房たちと一緒に、 武人の一行が訪れるのを待つことにしました。 京から逃がれて手に入れた、夢のような生活の終わりを、 しずかに迎え入れようというのです。 桃子姫の思い人や男たちの半数は、 女たちを守るため行動を共にしました。 残りの二十名ほどは、急いで身の回りの物をまとめると、 仁王丸となでしこに礼を言い、山中へ姿を消しました。
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