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廟堂の前で待ち構えていた仁王丸は、
綱の姿を見咎めると何も言わず、
抜き身の打刀を相手に向けます。
綱も髭切の太刀をすらりと抜くと、
裂帛の気合いとともに打ちかかりました。
一合、二合、鋼と鋼がぶつかり、火花が散ります。
綱はおどろき、片方の眉をはね上げました。
三合目を斬り結んだときのこと。
仁王丸の腰が相手の体をはね上げました。
武人は背中から地面に叩きつけられます。
必死の気合が、体格と武芸の劣勢をひっくり返したのです。
髭切の太刀は手を離れ、かたわらの草の上に落ちました。
「綱どの、頼みがある」
仁王丸は組み敷いた相手に語りかけました。
思いもかけぬ不覚をとった綱は、
おどろきのあまり呆然と彼を見返します。
首筋には打刀の冷たい鉄の感覚がありました。
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