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仁王丸が口を開きます。
「俺の首をとれ」
「待て、待て、仁王丸よ。そなた何を言っているのだ」
綱はおどろき、混乱していました。
格下の相手に投げ飛ばされた上に、
自分を組み敷いた敵が、
「首をとれ」と言い出したのです。
「異人を討って手柄とするがいい。その代わり、なでしこを逃がしてくれ」
見開かれていた綱の目が、まばたきします。
「吾を殺して二人で逃げようと考えないのか」
「帝の命を受けた頼光の家来を殺したら、源家も朝廷も全力で俺を追うだろう。逃げ切れるわけがない。ふるさとにまで迷惑を掛ける。命を取らない代わりに見逃してくれと頼んでも、まことの武人である綱どのが承知するはずがない。仮に首を縦に振ったとしても、俺が力を緩めたとたんに約束を破り、使命を果たすに決まっている」
「そなたはそれを恨みに思うか」
「思わない。それが武家というものであろう。だから、こうして頼んでいる」
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