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仁王丸が京で仕事を始める際に、
里の者に言われたのです。
「帝には勝てぬ」と。
どんなに強い力を持っていても、
個人では国に勝てる道理がありません。
「なでしこは公家のむすめだろう、なぜ京に戻らない」
「出会った時にあいつは、『自分をさらうか鬼に喰わせてくれ』そう俺に乞い願った。貧しさのあまり人買いに売られようとしていたからだ」
仁王丸が食いしばった歯の間から言葉をしぼり出します。
豪勇をほこる渡辺綱も声を失ってしまいました。
没落した公家がむすめを遊女として売ることがあるとの
うわさは聞いていましたが、
まさかと思い信じていなかったのです。
「承知した。貴公の首だけを京へ持ち帰ると約束する」
仁王丸は綱の首筋に当てた刀を緩めます。
彼が立ち上がると、
横合いから、なでしこが飛び込んで来ました。
手には髭切の太刀が握られています。
彼女は体をぶつけるようにして、
渡辺綱に斬りかかりました。
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