京《みやこ》の小路

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仁王丸は素早く頭を巡らし、なでしこの手を取り歩き始めました。 彼女は手を引き抜こうとしましたが、きつく握られていて離れません。 傍目には、男に連れて行かれるのを女が嫌がっているように見えるのでした。 「来るのは誰ぞ」 野太い声が誰何(すいか)します。 綱の右手は油断なく太刀の(つか)に置かれました。 下手な嘘をついたら、首が飛ぶでしょう。 「因幡国(いなばのくに)の仁王丸と申します。雇われて(みやこ)に住んでおります」   綱はすらりと刀を抜きました。 「そこの(むすめ)は」 「妻です。実家(さと)に逃げ帰ったのを連れ戻して来たのです」 なでしこは彼の顔を平手で打ち、ひるんだすきに手を解こうとしました。 ところが逆に手を引っ張られ、抱き寄せられてしまいました。 「暴れるな。人前でみっともない」 彼女はとっさの機転で芝居に合わせてみたものの、 頬を赤くした彼がにらみつけるので、すこし怖くなりました。 「近頃は人さらいが多い。公家のむすめまで被害にあう。鬼の仕業だと聞くが、どう思う」
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