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仁王丸が返事を躊躇すると、綱は刀を突きつけます。
「その娘の召しもの、元は絹の単衣ではないのか。因幡の仁王丸よ。その太々しい面構えと太刀を恐れぬ様子。そなたは鬼か、さもなければ鬼使いの異人であろう」
綱は情け容赦のない真の武人です。疑わしきは迷わず斬ります。
「因幡国の仁王丸。因幡か……、『つちぐも』と同郷だな」
仁王丸が口を開くよりも早く、太刀が一閃しました。
彼の背に鋼の刃が触れると思われた刹那、
鈴の鳴るような音がして刀は跳ね返されました。
仁王丸の影から身を乗り出した鬼が、人の頭ほどの拳を天に突き出しています。
「わしが相手をする」
低い声が腹に響きます。鬼は頭に二本の角を生やしていました。
寺の鬼瓦も恐れをなすほどの厳つい顔で、
筋骨隆々とした体には獣の皮の腰みのを巻いています。
身の丈は3尋半(4.5m)ほどもありました。
「守天、気をつけろ。そのご仁は強い」
返事もせずに武人とにらみ合う鬼の「守天」を置いて、二人は走り去ります。
渡辺綱は追う事が出来ません。
それでもさすがは頼光四天王、臆することなく鬼の隙をうかがいます。
対峙すること暫し、鬼が声を上げました。
「もっと遊んでやりたいが、またの機会じゃ。綱どのよ、次に会うときは『髭切』か『蜘蛛切丸』を持って来い。なまくら刀でわしは斬れぬぞ」
綱が色めき立って太刀を振りかざすと、鬼は高笑いしました。
風が吹き、砂埃が巻き上がります。
まばたきをする間に、鬼はおぼろ月に照らされた辻から姿を消していました。
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